自力救済とは
借主の家賃滞納が発生した場合、貸主としてはどうにかしてそのような事態を打開したいと考えるのはもっともなことではあります。
しかし、自分で借主の部屋の鍵を変えたり、室内に立ち入って荷物を処分したりすることはできません。このような行為を自力救済といいますが、自力救済は原則として禁止されております。
最高裁昭和40年12月7日判決も、私力の行使は原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で例外的に許されるものに過ぎないとされております。
ですので、勝手に部屋の鍵を変えたり、荷物を処分するなどした場合、逆に借主から不法行為責任を追及されるおそれがあります。また、住居侵入罪として刑事上の問題に発展するおそれもあります。
もっとも、賃貸借契約書に、家賃滞納の場合、貸主は適宜室内に入り動産を処分することができるといった条項が時々入っていることがあります。
これを文字通り読めば動産を処分できてしまいそうですが、このような条項は公序良俗に反するものとして無効となります。ですので、このような条項が入っているからといって自力救済することもできません。
事例
例えば、東京地裁平成18年5月30日判決は、賃貸借契約書に、賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は賃借人の承諾を得ずに本件建物内に立ち入り適当な処置をすることができる旨の特約があった場合において、以下の判示をして、マンションの管理会社が賃料を滞納した賃借人の部屋に立ち入るなどしたことが不法行為に当たるとしております。
「本件特約は、賃借人に対して、賃料の支払や本件建物からの退去を強制するために、法的手続によらずに、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを許容することを内容とするものというべきところ、このような手段による権利の実現は、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合を除くほかは、原則として許されないというべきであって、本件特約は、そのような特別の事情があるとはいえない場合に適用されるときは、公序良俗に反して無効であるというべきである。」
なお、上記判決では、「特別の事情がある場合」は例外としておりますが、賃貸借関係において特別の事情がある場合に該当する事例はなかなか考えにくいのではないかと思われます。
では、借主が既に出て行ってしまっており、室内に誰も住んでいないことが伺える場合はどうでしょうか。この場合もやはり自力救済はできません。借主が出て行ってしまっているというのは、あくまで貸主側の主観に過ぎず、借主が長期出張しているなどの事情も考えられます。法的には借主が部屋を占有していることに変わりはありません。
法的手続でお困りの場合は早めに弁護士にご相談ください
したがいまして、貸主としては、家賃滞納が発生した場合、借主に部屋を使わせないように鍵を変えたりすることはできません。あくまで法的手続を取って明渡を求めていくことが必要になります。法的手続を取るには時間がかかりますので、早めに弁護士に相談することが必要です。
弊所では、明渡に向けた借主との交渉や法的手続等の対応をしております。借主の家賃滞納でお悩みのオーナー様はお気軽にご相談ください。